寝たきりや座りっきりの人にとって、最大の脅威が床ずれです。しかし、正しい床ずれ防止や介護の方法はあまり知られておらず、本来床ずれを防げたはずのケースでも、間違った方法により発生したり、進行してしまった例が多くあります。
床ずれは一度できてしまうと簡単には治らず、患者はもちろん介護者にとっても肉体的、精神的に非常に大きな負担となるばかりか、場合によっては合併症によって、命取りとなることもあります。
床ずれに関する基本的な知識と、正しい防止方法、介護方法を身につけていただくお役に立てれば幸いです。
このページは、医学的根拠に基づいた内容で構成されていますが、すべての方やケースにあてはまるものではありません。疑問に思われることがありましたら、弊社までお問い合わせください。
同じ姿勢を長時間とることで、圧迫によって特に骨の突出部や脂肪の少ない部分の血流が悪くなり、壊死に至ってしまいます。これが床ずれ(=褥瘡)です。床ずれが悪化すると、患者の身体的・精神的な負担が増すばかりか、感染症などの危険も増大してしまいます。
床ずれは、圧力が最も大きな原因ですが、その他にも患者自身に関する要因、患者を取り巻く環境やケアに関する要因など、様々な要因が絡み合って起きる総合疾患です。床ずれ防止は、体位交換を行う介護者や看護師はもちろん、医師、理学・作業療法士、栄養士等が一体となって取り組まなければなりません。
日本褥瘡学会より抜粋
一部の医学療護を一般向けに変更しております
床ずれのよくできる部位は、個人差はあるものの大体決まっています。それは、『骨の突出がある』『体重がかかる』『皮下脂肪が少ない』、あるいは『ズレが生じやすい』などの部位です。
図で表示されている矢印は、床ずれのできやすい部位ですので、特に注意して初期の段階で床ずれを見つけるようにしましょう!
床ずれは、その深達度によって多くの分類方法があります。ここでは介護に便利な「NPUAP(全米褥瘡諮問委員会)による分類方法」をご紹介します。患者の床ずれ状態を知ることは、とても重要なことです。
日本褥瘡学会の提唱する「DESIGN」では、Ⅰ度は持続する発赤としています。また、Ⅳ度よりも更に深いところや関節の中に至る損傷、または壊死組織などで深さの判定ができない状態をⅤ度としています。
体位交換とは、体の向きや姿勢を変えることです。人は、起きている時はもちろん、眠っている時も無意識に寝返りをうって、体の一部に圧力が長時間かかることを避けています。しかし、寝たきりや車椅子の人は、この体位交換ができないか、できたとしてもかなり制限されてしまいます。
通常、床ずれ防止には、2時間に1回の体位交換が必要とされていますが、健康状態などの要因によっては、更に短い時間での体位交換が必要です。
確かに若く健康な人の方が、同じ条件では、床ずれはできにくいでしょう。しかし、油断は禁物です。例えば、全身麻酔下の手術中は、体位交換が一切できません。2~3時間以上の手術では、軽症のものも含めますと床ずれなどの皮膚障害は必ず発生するといっても過言ではありません。
また、交通事故で入院した若い人にも床ずれができることもあります。このように、床ずれは年齢や健康状態を問わず誰にでもできる可能性があります。
今でもねまきやベッドシーツに硬い素材が使われたり、ひどい場合は、のり付きでパリパリになっていることがあります。また、ねまきのしわは湿ると硬くなります。
『硬い』ことは、床ずれができる原因となりますので、その素材には注意が必要です。縦横いずれかに伸びる柔らかい素材のものを、ベッドシーツの場合はきつく巻き込まずゆったりと、ねまきの場合は体格に合ったものをしわができないように装着するとよいです。
床ずれの大きな原因でありながら、見落とされがちなのが栄養状態の悪化です。栄養状態が悪いと床ずれが発生しやすくなるうえ、傷が治癒するために必要なタンパク質、炭水化物、ビタミン、鉄、銅などが不足すると床ずれは治りにくくなります。
寝たきりの人にとって食事は大きな楽しみのひとつです。医師や看護師とよく相談して、制限がなければ、タンパク質を多く含んだ好みの食品を食べさせてあげるのもよいでしょう。
寝たきり状態ではよくないからとベッドをギャッジアップすると、お尻で体重の大部分を受け止めることになり、寝ている状態よりもお尻に大きな圧力がかかります。そればかりか体がずり落ちるために、背中や腰の皮膚に摩擦やズレを生じてしまい、床ずれが発生する危険性が高くなってしまいます。
ギャッジアップする時は、体がずり落ちないように、まず膝を曲げて固定してから上体を30度まで上げます。30度以上に上げる必要がある場合は、特にお尻の皮膚の状態に注意しながら、長時間同じ姿勢にならないように気をつけましょう。
円座は床ずれ防止用具として多く販売されていますし、床ずれ防止講習等でも広く紹介されていました。しかし近年の研究では、いくつかの問題点が指摘されています。 その主なものだけをご紹介します。
床ずれは、圧力により血の流れが悪くなるために発生するということから、床ずれの初期症状である発赤ができた時にマッサージすることがありますが、これは厳禁です。皮膚の表面が発赤程度でも、その下の広い範囲ではもっと強い損傷を受けていることがあります。マッサージによって、損傷がさらに強くなってしまいます。
スキンケアとは皮膚のお手入れのことで、基本は『常に清潔に保ち、湿潤を避ける』ということです。今までの床ずれ防止はスキンケアまで行き届いた介護は少なかったというのが実情ですが、本来は床ずれ防止にとって欠かせない重要なテーマです。ただし、間違ったスキンケアは床ずれを発生/進行させてしまいますので、注意が必要です。
日本人は非常にお風呂好きです。床ずれができていると、入浴はよくないと思われがちですが、全身状態がよければ、医療用のフィルム材などで床ずれ部位を密閉して、できるだけ多く入浴したほうがよいのです。軽い発赤なら、密閉も必要ありません。また粘着テープを使って密閉する時は、テープが床ずれ部位とその周囲にかからないように注意が必要です。
入浴は、皮膚の清潔を保つ上、血行をよくしますので、床ずれの防止や治癒に大きな効果があります。
日本では年間1万人以上の人が入浴中に死亡しています。その多くは65歳以上の高齢者ですが、海外に比べてこれほど死亡者が多いのは、入浴の方法に問題があるようです。寝たきりの方の多くは健康状態や体力が通常より弱くなっていることが多いので、次の点に注意して危険のない入浴を楽しんでください。
皮膚の湿潤は、床ずれの原因になりますので、蒸れの防止と皮膚の適度な乾燥は必要ですが、床ずれ部位をドライヤー等で乾燥させることは絶対にしてはなりません。乾燥させると白血球やマクロファージ、細胞成長因子という床ずれを治す因子の働きを止めてしまうだけでなく、せっかく再生した組織が脱水で死んでしまったり、細菌が増殖する原因となってしまいます。
ただし、膿や滲出液が多い時は、洗浄や吸収が必要になります。きずには、適度な湿潤が必要なのです。
一般には、洗浄が十分であれば、消毒は必要ないといわれています。皮膚や床ずれ部位には細菌が存在するのが当たり前です。仮に消毒を行ったとしても、細菌は数時間後には増殖してし元の数に戻ってしまいます。そればかりか強い消毒液は床ずれの治癒に必要な細胞や再生した組織にも障害を与えていしまいます。消毒液の使用には十分は注意が必要です。
介護する側からすると、おむつの使用は非常に便利ですが、使う人いとっては精神的にとてもつらいものです。特に密閉度の高いおむつは、蒸れやすいので、床ずれの原因になる可能性があります。できるだけ排泄の自立訓練や治療を行って、尿器や便器が使えるようにしましょう。また、もしもおむつを使用する時は、濡れていればできるだけ早く交換するか、撥水性クリームの塗布などで肌に排泄物が接触しないようにしてください。
健康な人でも、すり傷を洗うことはあっても拭き取ることはないように、床ずれ部位は洗浄するものであって、清拭するものではりません。
清拭は摩擦を加えることになるので、弱った皮膚を傷つけることになってしまいます。また、布に付着した細菌を床ずれ部位にこすりつけたり、床ずれ部位の細菌や膿を周囲の皮膚に拡げてしまう結果にもつながります。
適度な日光浴は精神的にも肉体的にも健康的ですが、床ずれ部位に関しては避けた方がよいです。 太陽光の紫外線は殺菌力が強く、皮膚の再生を阻害する可能性があります。また、ドライヤー同様に患部を乾燥させて治癒を遅らせますので、窓から日光が当たる場所も含めて、太陽光が床ずれ部位に直接当たらないようにしなければなりません。
床ずれ部位に残っている薬品や膿、細菌などの異物を洗い流すことは、治癒にとても貢献します。十分な量の生理食塩水や水で、少し水圧をかけて洗浄するとよいでしょう。消毒液や洗剤は混ぜてはなりません。
床ずれが進行してポケット状にえぐれている時は、ポケットの中も十分に洗浄します。また、出血や剥離の原因となるため、洗浄の時にガーゼや綿球などでこすってはなりません。
なお、床ずれの周囲を石鹸で洗浄することは、衛生上、治癒上でとても有効です。ただし、皮膚の下に損傷を受けていることがあるので、強い力はかけないようにしましょう。
床ずれの最大の原因である圧力に対して、最も効果的な防止方法は体位交換ですが、実際には昼夜を問わず2時間に1回の体位交換を行うことは、介護者の体力的、金銭的、時間的なことなどを考えるとなかなか困難です。そこで、床ずれ防止用具の出番です。それぞれが圧力分散を考えて開発されていますので、使わない状態に比べて体位交換の回数を減らすことができます。
床ずれ防止用具を使えば、体位交換をしなくてもよいと考えている方や宣伝している商品もありますが、これはとても危険です。体位交換は床ずれを防止する以外にも、体の下側に血液が溜まることを防いだり、かけがえのないコミュニケーションを行う役目もあるのです。また、床ずれ防止用具の性能も千差万別ですので、すべてを頼りきってしまってはいけません。
床ずれ防止用具には様々なタイプがありますが、その選び方を間違うことで患者の身体能力を低下させてしまうようなケースも増えています。例えば、体動能力の残っている人にエアマットや厚みのある低反撥ウレタンフォームなどを使用すると、体が沈みこむために動きにくくなったり、起き上がりにくくなったりしてしまいます。すると、体を動かそうとする意欲が萎え、筋肉が萎縮することなどで、半寝たきりの人が完全寝たきりになってしまうこともあるのです。
もう一つの床ずれ防止用具の選び方を間違うことで怖いのは、床ずれができたり悪化することです。必要以上に高機用能やクッション性の高い床ずれ防止用具を使用することは、前述の通り身体能力の低下に繋がりますが、逆に床ずれのできる危険性の高い患者に低機能の床ずれ防止用具を使うことも危険です。つまり、はじめにどのレベルのどのタイプの床ずれ防止用具を使うかということも大切ですが、患者のその時々の状態に応じて床ずれ防止用具を使い分ける必要があります。
床ずれ防止用具としての最低の条件は圧力分散ですが、この圧力分散というものは、なかなか体感することはできません。健康な人にとって寝心地のよいベッドでも寝たきりの人の場合は床ずれができてしまうことがあります。そこで、効率のよい床ずれ防止用具かどうかの目安として、次の5点を確かめてみるとよいでしょう。
ある程度沈むことは、圧力分散と接触面積を多くする点から必要ですが、厚みがあり過ぎて必要以上に沈み込むと「ハンモック現象」が起きて、体の両サイドや肩や腰などの突出した部位に圧力が集中してしまいます。ふわふわのソファーの方が長時間になるとしっかりしたソファーよりも疲れやすいのはこのためです。
床ずれ防止用具に寝た時に、体の一部がベッドマットレスや布団などについてしまうことを「底づき」といいます。底づきしてしまうと、それ以上圧力分散ができません。つまり、底づきをしにくい方が、圧力分散能力が高いといえます。
空気や水を使った床ずれ防止用具で特に注意しなければならないのは、量が多すぎると空気や水は押し返す力が強いということです。押し返す圧力が高いと、逆に床ずれの危険性が大きくなります。エアーマットの場合は、この押し返してくる力を制御するために、体重によって空気圧調整ができるタイプがよいでしょう。
寝たきりの方の皮膚は弱っていることが多く、少しの擦れで傷つき、床ずれの原因となってしまいます。そのため、マットの表面で指を縦横に滑らせてみて、いずれか一方でもザラザラするような床ずれ防止用具は避けた方がよいです。
近年、介護ビジネスに参入する企業も多いですが、2~3年で撤退してしまい購入した後に故障が起きても対応してもらえないケースも増えています。保守サービスをしっかりしている企業かどうかは、
等を目安とするとよいでしょう。
一般的な特長ですので、詳しい特長については各メーカーにお問合せください。
製品によって厚みが様々です。材質(弾力性や反発性など)が同じであれば、厚みがあるほど圧力分散能力は高いですが、 体の沈み込みも多くなります。低反撥ウレタンフォームの多くは低温でかなり硬くなりますので、冬季には注意が必要です。価格が比較的安価であることと、電源や調整がいらないというメリットがあります。 体の沈み込みを抑えるために、硬めのウレタンフォームと組み合わせるなどした商品もあります。
大きくは静止型と圧切り替え型とがありますが、厚みが増すほど体の沈み込みは多くなります。圧切り替え式エアマットは、電源が必要でモーター音などもありますが、圧力分散能力は全体的に高く、自力で体位交換ができない患者等で圧力分散を最優先するケースに適しています。最近では、ベッドの背上げや体動能力に対応したタイプの商品もあります
中身が軟らかく流動性なので、床ずれ部位の痛みを緩和することには適していますが、体が沈み込み易く、表面のフィルムが破損すると中身が流れ出てしまいます。また、耐熱性や耐薬品性、耐久性に乏しいものもあり注意が必要ですが、材料の性質上、熱が籠もりにくいことや、電源や調整がいらないというメリットがあります。
体の沈み込みはほとんどなく安定感に優れていますが、様々な材質の商品があり、中には底づきをしやすいものもあるので注意が必要です。どの商品も比較的重いという問題点はあるものの材料の性質上、熱が籠りにくいことや、電源や調整がいらないというメリットがあります。流動性か固体性かは見た目や感触だけでは分かりませんので、カタログ等で確認する必要があります。