床ずれ防止の豆知識

床ずれ力を科学する

はじめに

寝たきりや座りっきりの人にとって、最大の脅威は床ずれです。
近年、床ずれについて様々な分野で研究が進んだことにより、今までの常識を覆すような新しい事実が次々と報告されています。
このページでは、最新の研究で実証された「ずれ力の脅威」について、分かりやすくご説明します。
このページが皆様にとって、今までの疑問を解決し、さらに効率のよい床ずれ防止のお役に立てることができれば幸いです。

このページは、医学的根拠に基づいた内容で構成されていますが、すべての方やケースにあてはまるものではありません。疑問に思われることがありましたら、弊社までお問い合わせください。

Lesson1床ずれの主な要因は圧力だけ?

長い間、床ずれの主な要因は圧力と考えられていました。
「32mmHg を超えると毛細血管が潰れる=床ずれ発生」とされ、とにかく圧力分散が床ずれ防止の基本とされていたのです。

しかし、本当にそうでしょうか?

車椅子などに座った状態では、32mmHg どころか、とても大きな圧力が継続してかかりますが、座っている人すべてに床ずれができるわけではありません。
また、すべての床ずれ防止用具が圧力を32mmHg 以下に抑えているわけではありませんが、それらの用具の多くが床ずれ防止に貢献しています。
どうやら圧力分散だけでなく、何か他の要因を解決しても床ずれ防止に貢献できる、つまり圧力以外にも床ずれ発生の大きな要因があるようですね。

ここでの圧力とは、垂直にかかる力と考えてください

Lesson2「32mmHg以上=床ずれ発生」理論の危険って?

32mmHg という圧力は、350ml のペットボトルをさかさまにして、ふたの部分を下にして掌に置いたときに感じる小さな圧力です。

寝ている人や座っている人の仙骨などにかかる圧力を、すべて32mmHg 以下に抑えようとすると、とても柔らかく厚みのある床ずれ防止用具を使用しなくてはいけません。

床ずれ防止のためとは言え、そのような商品を安易に使用するとどうなるでしょう?
ある程度、動けていた人がとても動きにくくなったり、介護がとてもやりにくくなったりしてしまうこともあります。

もちろん、圧力分散を最優先に考えなくてはいけないケースもありますが、すべての方がそうではなく、その方の体動能力や介護環境などによって、 様々なタイプの床ずれ防止用具の中から、最適な商品を選んであげることが大切なのです。

Lesson3せん断力ってなに?

近年の研究で、せん断力というものが、圧力と同じくらい床ずれの重要な要因であることが分かっています。

せん断力とは力学用語ですが、分かりやすく言い換えると、よくご存知の「ずれ力」のことです。

大きな圧力でも床ずれができないケース、それほど大きな圧力がかかっていないと思われるのに床ずれができてしまったケース。
「床ずれの主な要因は圧力だけ」と考えていては、説明のつかないケースがたくさんありました。

この謎を解く鍵は、ずれ力にあるようです。
それでは、そのずれ力について、もう少し詳しくご説明しましょう。

Lesson4もっと詳しくずれ力を知ろう!

ずれ力と摩擦とは、似ているようですが異なります。

皮膚の上で軽く指を滑らせてみてください。
圧力が加わっていない状態で指を滑らせた時、皮膚に生じているのは摩擦です。

もちろん、この状態では皮膚表面がこすれるだけで、皮膚内部で床ずれの原因となる血流不良を起こすことはありません。

では、指を押し当てながら滑らせてみてください。
圧力を加えた状態で指を移動させた時に、皮膚も移動します。この皮膚を移動させる力がずれ力です。

このずれ力が、皮膚の内部でどのような作用を起こし、それが床ずれ発生にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

柔らかい皮下組織には血管が通っています。
この血管が潰れることで、血流不良を起こし床ずれの原因となります。

人間の皮膚内部を卵豆腐、毛細血管を卵豆腐に貫通した穴で再現した模型イラストを使ってご説明します。

まず、卵豆腐を垂直方向に押し込んでみます。
かなり大きな力(圧力)を加えなければ、穴は潰れません。

次に、ずれ力を僅かに加えてみます。
すると、少しの力で穴は潰れてしまいました。
このことから、卵豆腐を使った模型実験では、次のような仮説が立てられます。

  • 圧力だけでは血管は潰れにくい
  • ずれ力が僅かでも加わると、血管は潰れやすくなる

Lesson5垂直方向の圧力だけなら恐るに足りず!

卵豆腐を使った模型実験で2つの仮説が立てられましたが、実際の人体ではどうなのでしょうか? 圧力をかけた状態で毛細血管血流を撮影することができる、特殊な機械を使用して実験をしてみました。

するとどうでしょう!

毛細血管1本に対して40mmHgの圧力をかけても毛細血管に変化はなく、血流は良好でした。
そのまま圧力をかけ続けると、毛細血管の血流が止まったのは、なんと80mmHgでした!

しかも、80mmHgでも毛細血管は閉塞していない、つまり必ずしもそれだけですぐに床ずれの原因となるとは言い切れない状態だったのです。

そこで、今度はラットの毛細血管に直接圧力をかける実験を行いました。
やはり、80mmHgの圧力をかけても毛細血管血流が止まらないこと、ずれ力を僅かに加えると、少しの力で毛細血管血流は止まることが確認されました。

“微小環境”では、巨体の象もラットも、そして人間も幾何学的には同等の毛細血管網をもちます。つまり、ラットを用いたこの実験結果は、人間にも当てはまるということです。

結論「床ずれの最大の脅威は、ずれ力が加わることです! 」

卵豆腐、試験装置、ラットの毛細血管を使ったすべての実験で、

  • 垂直方向の圧力では、毛細血管血流はなかなか止まらない
  • 僅かなずれ力が加わると、少しの圧力で毛細血管血流は止まる

ことが実証されました。
このことから、ずれ力は圧力と同じくらい床ずれの大きな要因となることが分かりました。
これからの床ずれ防止は、圧力分散だけではなく、ずれ力分散も併せて考えていくことが大切なのです!